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連合軍専用列車の後身「特殊列車」(1952年)

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もうひとつ、日本が占領時代から脱却する時期の資料を紹介します。戦後の一時期を駆け抜けた「特殊列車」の時刻表です。

終戦とともに占領軍が日本の鉄道の管理に強大な権限を行使したことはよく知られています。その結果、「連合軍専用列車」や「連合軍専用車両」が日本各地で運行されました。

「連合軍専用列車」は、1946(S21)年1月に東京~門司間で運行開始した"Allied Limited"にはじまり、同じく九州方面への"Dixie Limited"や札幌への"Yankee Limited"などが運行されました。
しかし、1952(S27)年の講和条約発効を契機に鉄道の管理は再び日本側に委ねられ、これらの専用列車は駐留軍関係者だけではなく日本人の利用にも開放されるようになります。こうして同年4月に誕生したのが「特殊列車」でした。

これは「特殊列車」が登場したときに国鉄(日本国有鉄道)が乗客に配布したチラシで、『日本初の国際列車だから日本人もそれにふさわしくキチンと振る舞いなさい』という旨の記述が、占領から脱して新しい時代へと踏み出す当時の日本の気概を感じさせます。

一方、外国人向けの英文には『席を離れるときは所持品に注意』との記述も。やはり時代が時代だけに、物騒な面もあったのでしょうか。もっとも、この資料からは直接は読み取れませんが、MPも警乗していたといいます。

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上は、チラシの裏面で、「特殊列車」の時刻表が記載されています。
「特殊列車」は、その前身である連合軍専用列車をほぼそのまま引き継ぎ、東京~佐世保間二往復と横浜~札幌間一往復の運行でした。
特筆すべき点としては、英連邦軍の便を考えて呉線を経由していたこと、横浜から東京駅を経由して直接東北本線に乗り入れていた(※)こと、青森~函館間は青函連絡船で寝台車が直通していたことなどが挙げられます。

ちなみに、「連合軍専用列車」の運行時刻は国鉄が発行した外国人向けの英文時刻表にだけ掲載されていましたが、「特殊列車」となってからは交通公社などが発行する日本人向け時刻表にも記載されるようになりました。

さて今日、「特殊列車」に関する実物資料を目にする機会はほとんどないと言っても良いでしょう。ここではそんな資料をさらに2つほど紹介します。

一つ目は食堂車のメニュー。1953(S28)年8月のものです。(左半分が表、右半分が裏)

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料理は当時の食堂車とあまり変わるところはありませんが、右中程に書かれた『酒類を扱っていない』(公務移動中の禁酒は軍隊の規律保持上の基本原則)ことと『駐留軍乗客むけの食事は軍兵站部が用意した食材で作られるので別献立』といった注記が、この列車の性格をよく表しています。

二つ目は1952(S27)年の「寝台使用証」。(同じく左半分が表、右半分が裏)

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いったい、どういった目的でこの書面が必要だったのかは分かりませんが、住所氏名を記載するところを見ると、警備上の理由があったのかもしれません。

「特殊列車」という“名無しの列車”は、1954(S29)年には他の急行列車並みの名前が付けられ、もはや普通の日本人向けの列車と変わらない姿となって歴史の一ページに姿を消したのでした。


(※)昭和40年代に東北新幹線工事の関係で東北本線方面から東京駅への乗り入れが出来なくなって以降、こうした直通運転があったことは長らく忘れられていましたが、東京駅と上野駅を連絡する工事が現在行われており、数年後には再び東海道本線と東北本線の直通が復活する予定です。

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プロフィール

ttmuseum

Author:ttmuseum
「20世紀時刻表歴史館」館長。
サラリーマン稼業のかたわら、時刻表を中心とした交通・旅行史関連資料の収集・研究・執筆活動を行う。

<著作>
「集める! 私のコレクション自慢」(岩波アクティブ新書・共著)

「伝説のエアライン・ポスター・アート」(イカロス出版・共著)

「時刻表世界史」(社会評論社)

「時空旅行 外国エアラインのヴィンテージ時刻表で甦るジャンボ以前の国際線」(イカロス出版)

その他、「月刊エアライン」「日本のエアポート」「航空旅行」(いずれもイカロス出版)、「男の隠れ家」(朝日新聞出版)などに航空史関係記事を執筆。

<資料提供>
・航空から見た戦後昭和史(原書房)
・昭和の鉄道と旅(AERAムック)
・日本鉄道旅行地図帳(新潮社)
・ヴィンテージ飛行機の世界(PHP)
の他、博物館の企画展や書籍・TVなど多数。

「時刻表世界史」で平成20年度・第34回交通図書賞「特別賞」を受賞。

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