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ナチス・ドイツに飛んでいた“中立国”スイスのエアライン(1944年)

スイスと聞いてまず思い浮かべるのは、「アルプスに抱かれた平和で牧歌的な国」というイメージでしょう。
たしかに、19世紀から続く永世中立国という特異なスタンスによって、スイスは世界各国で起きる国家間の争いからは縁遠い位置にあるというのは事実と言えます。

一方で、かつては原爆の保有を考えたことがある位、アグレッシブな面をスイスは持っています。
永世中立とは、丸腰で平和を主張するということではなく、他のどの国とも連合しない一方で、自分の身は自分で守る-つまり、自国の主権が他国によって侵されるようなことがあれば、時に武力を行使してでも自らの手で自国を守り抜くという決意のもとに成り立つ概念だからなのです。

しかし、国際関係はそこまで甘いものではありません。
時として永世中立が妥協を強いられる局面があったのも事実でした。



今日紹介するのは、第二次世界大戦末期・1944(S19)年1月にスイス航空が発行した時刻表です。ちなみに、スイス航空は2002(H14)年に倒産してしまっており、今日のスイスのフラッグキャリアであるスイスインターナショナルエアラインズは、スイス航空のグループ会社がスイス航空を継承したものです。

この時刻表は、表に時刻・裏に旅客むけの案内事項が記載された小さな一枚もの。
戦前のスイス航空は、もちろんヨーロッパ主要都市に路線を伸ばしていましたが、当時はチューリヒからドイツのシュトゥットガルトだけに就航していました。もっとも、戦時中に民間航空路線が残っていたということ自体がまず驚きといえるでしょう。
機種はダグラスDC-2。大戦中のナチス・ドイツにアメリカ製旅客機が飛んでいたこと自体、ちょっと違和感があります。

この路線、1942(S17)年の時点ではシュトゥットガルト経由でベルリンまで運航されていましたが、連合軍がドイツ本土爆撃を行うようになると短縮されてしまったようです(それでも、この時刻表にはベルリン方面へのルフトハンザ便の連絡が記載されています)。

ところで、永世中立のスイスは、第二次大戦中にどのような位置づけにあったのでしょうか?
その答えの一端がこの時刻表から見えてきます。

ナチス・ドイツはスイスへの侵攻計画を持っていたといいますが(結局、発動はされず)、実際にはドイツとスイスの間にも貿易や物流・金融など密な関係があったことが知られています。周囲をナチス・ドイツをはじめとした枢軸国に囲まれてしまった以上、好むと好まざるとにかかわらず、上手く付き合っていかざるを得ませんでした。それが、ドイツへの路線維持となって表れている訳です。

時刻表の下の方に目を移すと、シュトゥットガルトからイベリア半島へ伸びる路線の時刻が見えます。
これはドイツのルフトハンザが運航していたものですが、シュトゥットガルトでこの路線に乗り継ぐと、同じく中立のスペインやポルトガルに達することが出来ました。
これらは大西洋に面していましたから、潜水艦の危険を避けることができれば、空と海から連合国側の人間もアクセス可能であり、枢軸側と連合国側両者にとって数少ない接点となり得る場所。もちろん、中立国スイスにとっても連合国側との貴重な窓です。

このように、対枢軸・対連合国という相反する方向へのアクセスが大戦真っ只中の一枚の時刻表に納まっているというのは、まさにスイスという国ならではのこと。しかし、スイス航空にイベリア半島方面への路線がなく、ドイツへの路線しか運航されていないというあたりは、枢軸寄りだというスイスへの批判からも合点がいく事実です。

1944年は激動の年でした。
ノルマンディー上陸作戦とそれに続くフランスの解放。これにより、枢軸国に囲まれた状態から地理的にも連合国と枢軸側との狭間へと周辺環境が変わったスイスは、大戦末期の和平工作の舞台ともなります。

(画像をクリックすると拡大します)
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プロフィール

ttmuseum

Author:ttmuseum
「20世紀時刻表歴史館」館長。
サラリーマン稼業のかたわら、時刻表を中心とした交通・旅行史関連資料の収集・研究・執筆活動を行う。

<著作>
「集める! 私のコレクション自慢」
(岩波アクティブ新書・共著)

「伝説のエアライン・ポスター・アート」
(イカロス出版・共著)

「時刻表世界史」(社会評論社)

その他、「月刊エアライン」「日本のエアポート」(いずれもイカロス出版)、「男の隠れ家」(朝日新聞出版)などに航空史関係記事を執筆。

<資料提供>
「昭和の鉄道と旅」(AERAムック)
「日本鉄道旅行地図帳」(新潮社)
「ヴィンテージ飛行機の世界」(PHP)
の他、博物館の企画展や書籍・TVなど多数。

「時刻表世界史」で平成20年度・第34回交通図書賞「特別賞」を受賞。

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